これからのBX(Brand Experience Design)には、ユーザーの声に応えるサービスが必要である、という記事を書きました。こうした、つくり手とユーザーとの双方向的な関係性は、数年後の未来において、ますます重要になってきます。これから訪れると言われている第三のインターネット「Web3」について紹介しながら、私たちの未来について予測していきましょう。
Web3とはなにか
Web3とは、次世代のインターネットを意味しています。この言葉は、新しいWebのあり方として、今後ますます注目されていくことが予想されます。この言葉を初めて使用したのは、ブロックチェーン基盤であるイーサリアムの創始者であるギャビン・ウッドでした。
Web3は「三番目のインターネット」です。Web3という言葉には、さまざまな技術要素が含まれています。ブロックチェーンやトークンエコノミー、NFTなど。こうした諸要素が組み合わさって、新しい社会のあり方を実現していきます。
これまでの世界では、友人との交流や会社での仕事、学校での勉強など、人々の活動の多くは現実空間に根ざしたものでした。
しかし、Web3がもたらす数年後の世界では、多くの活動はデジタル空間に移行すると考えられています。現実空間にオフィスをかまえるあり方はゆるやかに減少していき、今後は個人と個人がより自由に結びつきながらプロジェクトを進めていくような共同体に移行していくでしょう。
また、近所付き合いや地元の友人といった、ローカルを前提とした関係性は少なくなり、その代わりにデジタル空間でさまざまなレベルでの「仲間」や「友人」が増えていくと考えられます。
家族のあり方も変容していくでしょう。血縁関係のある旧来的な「家族」以外に、共同生活者や婚姻関係を結ばないパートナーなど、「準家族」とも呼べるような関係性が増加していくでしょう。
このように、Web3がもたらす未来では、仕事を取りまとめる「会社」や、家族を管理する「国家」、コミュニティのベースとなる「地域」といった、従来は強固だったものの力が弱まり、その代わりに「個人」がより自由に活動できるような社会が実現されます。
自由になる領域は、多岐にわたります。先述のように、「会社」というピラミッド型の組織ではなく、脱中心的でフラットな組織をつくりながら仕事を進めていくことになるでしょう。
創作活動の可能性も広がります。これまでは、成功した一部の人々が「クリエイター」と名乗ることができるような風潮がありましたが、こうした権威的なあり方ではなく、つくりたいものを作って、それが欲しい人に届く、という仕組みに変わっていきます。
日々のコミュニケーションや仕事、遊びの場は、現実空間からデジタル空間へと移行していくでしょう。目的地まで移動するコストが大きく減少し、大人数で集まることのリスクも小さくなるため、これまでは距離的・空間的な問題で実現できなかったイベントやコミュニケーションが可能になります。
お金の流れも変わります。これまで、ローンを組んだり投資・運用を始めるには、銀行の審査に通る必要がありました。しかし、銀行という中央の権力を必要としない新しいしくみを利用すれば、借り入れや運用は個人の意思で瞬時に実行することができるようになるでしょう。
新しい社会で必要とされるサービスのあり方
Web3の到来は、大きなゲームチェンジをもたらします。数年後の未来では、これまでの常識であったビジネスのセオリーが根底から覆されるようなものになっていくかもしれません。
それでは、来るべき新たな社会で生き残っていけるサービスとは、どのようなものなのでしょうか? Web3時代に必要とされるサービスには、四つの特徴があります。
- ユーザー個人に決定権がある
- ユーザー自らが情報やサービスそのものを管理できる
- リアルタイムで情報が取得できる/情報が高速に取得できる
- デジタルで完結できる/場所に縛られない
こうした特徴を具体的に把握するために、ここからは、Web3と呼ばれる仕組みの中で新しく生まれつつあるビジネスモデルの事例を見ていきましょう。
Nishikigoi NFT|デジタル村民とともに実現する町おこし
新潟県長岡市にある山古志は、2021年12月、地域活性化の一環として、NFTを活用した「デジタル村民」という試みを開始しました。山古志地域の特産品である錦鯉を描いたデジタルアートをNFTとして販売し、購入者は山古志の「デジタル村民」になれる、というサービスです。デジタル村民は「デジタル住民票」を付与され、地域活性化のための会議に出席することができたり、「デジタル村民選挙」での投票ができるようになります。この試みは大きな反響をよび、いまでは現実の村民数を超えるデジタル村民が誕生しています。
https://nishikigoi.on.fleek.co/
Nishikigoi NFTの試みを、「Web3時代のサービス」という観点から見ていきましょう。
- ユーザー個人に決定権がある
村民になるかどうかに審査や許可を待つ必要はない
「NFTアートの購入」によって「デジタル村民」になることができる
- ユーザー自らが情報やサービスそのものを管理できる
デジタル村民が自ら具体的なアクションプランを練り、投票で施策を決定
デジタル村民にもNFT売り上げの予算執行権限がある
- リアルタイムで情報が取得できる/情報が高速に取得できる
Discordを中心としてコミュニケーションをとり、会議を進める
- デジタルで完結できる/場所に縛られない
現実の山古志を礎としながら、遠く離れた場所にいても「デジタル村民」としての活動を完結することが可能
Nishikigoi NFTは、従来型のオンラインでの町おこしとは違い、「ユーザーの決定権」や「管理権限」に対して踏み込んだアプローチを行っています。「山古志住民会議」代表の竹内さんは、インタビューの中で以下のように語っています。
「これまでの取り組みは地域が主体となり、ふるさと納税やファンクラブ制度などを通じて、地域外の『サポーター』を集める形で進めてきました。ただ、これからはそうした『ゲスト』ではなく、地域作りに主体的に関わる『ホスト』を増やしていきたいと考えています。そこに向けては葛藤もありますが、葛藤しながらも前に進んでいきたいと思います」
https://withnews.jp/article/f0220608000qq000000000000000W00j10701qq000024774A
こうした参加者の個人個人を主体とするあり方は、非常にWeb3的であり、脱権力的なしくみといえるでしょう。自分で「参加」を決め、自分で「何をするか」を管理し、それらの決定が即時性を持って反映されていく。場所にとらわれず、興味があるものに対して関わっていける。Nishikigoi NFTは、数年後の未来を見据えたサービスです。
N26|ドイツ発祥のチャレンジャーバンク「ユーザー主導の金融サービス」
権力や信用情報を脱中心化する動きのなかで、「銀行といえばメガバンク」という価値観は過去のものになりつつあります。チャレンジャーバンクと呼ばれる新規事業者は、こうした人々の意識変容に応えるようにして誕生しました。かれらは銀行免許を取得し、新しい銀行サービスを開始します。既存の銀行のように店舗を持たず、スマートフォンを中心とした電子決済を行います。物理的な店舗を持つ既存の銀行と比較し、アプリ内での利用履歴がすぐに確認できたり、カードの紛失時にアプリで簡単に再発行の手続きができたりと、現代のユーザーニーズを捉えたサービスを展開しています。
こうしたモバイルバンキングの流れを作った重要な存在に、N26というドイツの銀行があります。
N26の提供するサービスは、「Web3時代の特徴」である以下の要素を押さえているといえます。
- ユーザー個人に決定権がある
各種手続きを、銀行に頼らず自分自身で実行できるユーザー主導のあり方
- ユーザー自らが情報やサービスそのものを管理できる
自分自身が使ったお金に関する分析データを自ら見ることができる
個人情報を自分で管理できる
- リアルタイムで情報が取得できる/情報が高速に取得できる
データ反映までのタイムラグが少なく、手続き実行後すぐにログを見れる
- デジタルで完結できる/場所に縛られない
物理的なカードがなくても、アカウントを開設した直後から利用できる
公式サイトでは、以下のようにサービスの説明がなされています。
【原文】
N26 is The Mobile Bank, helping you manage your bank account on-the-go, track your expenses and set aside money in real-time. Open yours in minutes right from your smartphone, and start spending before your physical card arrives.
【邦訳】
N26は、外出先での口座管理や、リアルタイムでの支払い履歴、貯金などに役立つモバイルバンクです。スマートフォンから数分で口座を開設でき、実際のカードが手元に届く前に利用を始めることができます。
2013年に開始したこの銀行で口座を開設すると、世界中で利用できる無料のマスターカードが付与されます。Google PayやApple Payにも対応しており、実店舗、EC店舗ともに電子決済を利用することができます。カードを紛失した場合は、アプリを使ってユーザー自身がロックをかけることができます。もちろん、紛失したカードが見つかった際は、ユーザー自らの手でロックを解除することができます。
N26では、ユーザーが使ったお金の金額や、使った時間を、アプリ内のAIによって分析し、結果を表示してくれます。利用履歴にタグをつけて、ジャンル別に管理をすることも可能です。
また、目標を設定し、貯金をする機能もあります。
自己決定権と、管理の権利、リアルタイム性に加え、従来ほかのサービスが担っていた「家計簿」や「貯金」といった要素も、N26で包括的に実行することができるのです。こうした広い視座でのサービス設計は、アプリケーションの氾濫が予測される未来において、ますます必要とされるでしょう。
Brave|次世代分散型の検索プラットフォーム「自分で決められるブラウザ」
Braveは、ブロックチェーンの技術を活用した、新しいインターネットブラウザです。開発を行ったのはブレンダン・アイク。開発言語Java Scriptの生みの親です。
Braveもまた、「Web3時代の特徴」を満たしたサービスといえます。
- ユーザー個人に決定権がある
ユーザーが許可しない限り広告を表示しない
- ユーザー自らが情報やサービスそのものを管理できる
広告を閲覧した場合はBATというビットコインをもらえる
ビットコインはお気に入りのサイトに寄付できる
- リアルタイムで情報が取得できる/情報が高速に取得できる
従来のブラウザよりも高速で、移行作業も簡単
- デジタルで完結できる/場所に縛られない
ダウンロード後すぐに利用できる
Braveでは、ユーザーが許可しない場合は広告が表示されません。そして、広告を見ることを選択した場合は、暗号通貨が謝礼として支払われます。この暗号通貨はBATという独自のもので、お気に入りのサイトに寄付することも可能です。簡易な広告が表示されることはありますが、ダウンロードは行われず、「ユーザーが見たくもない広告のためにデータ通信量を支払う」という状況が生まれなくなります。
Braveの CMは、画像の一切ないシンプルな構成で、「自分で決めたいだけ」というフレーズが印象的です。こうした価値観は、トラッキングやデジタル広告に疲弊した人々の心をつかみ、コアなファンを獲得しました。これまで利用していたブラウザのブックマークや拡張機能は、ワンクリックでインポートできます。
Braveの大きな強みである「ユーザーが自ら決定できる」「高速である」という点は、Web3がもたらす未来において、主要な要素です。また、お金の流れが一方的ではなく、双方向的であるという意味でも、Web3らしいといえそうです。
ブランディングはWeb3においても非常に重要な役割となる
ユーザーの影響力が強まり、場所や時間にとらわれない自由なコミュニティが構築されていく中で、Web3の時代は多数のサービスが競合していくことでしょう。生活者は数あるサービスの中から自分にマッチするものを選択していくことになります。
そこで非常に重要な役割を果たすのが、ブランディングです。
サービスを特定のターゲットに向けて明確に定義すること、そのサービスが提供する価値を正確に伝えること、サービスを識別するためのビジュアル、これらの重要性は増していきます。ユーザーはよりブランディングが明確で共感できるサービスを選んでいくことでしょう。
また、確立されたブランドは、サービスの認知度を向上させ、信頼性を高めることもできます。ブランド体験を通じて、ユーザーはサービスの価値を理解し、信頼することができます。これは、Web3の時代においてサービスの成功に欠かせない要素です。
つくり手である企業側は、強い意志を示し一貫したブランド体験を提供していく必要があるのです。
ここまで、数年後の未来はどのような社会になっているか、その社会ではどんなサービスが生き残っていくのかを、「Web3」を中心としながら、事例を交えて紹介してきました。
次回は、「場所にとらわれない」を実現するための要素となる「メタバース」について、ご紹介します。