BXデザイン(Brand Experience Design)では、「組織にとって大事なこと」を外向き・内向きの両面から設計します。
外向きのBXは「なにを成し遂げたいか」「どの領域を獲得したいか」という組織の思いを、世界に宣言する行為です。
そして、内向きのBXでは、「どんなチームを作っていきたいか」をメンバーに伝えて合意をとります。
それでは、なぜ今、BXの重要性が高まっているのでしょうか?
人々が抱いてきた消費価値観の変遷をたどりながら、BXが注目される理由を紐解いてみましょう。
消費価値観の変遷
この50年ほどの間に、人々の消費価値観は「モノ消費からコト消費へ、そしてイミ消費へ」という変遷をたどってきました。
1955年から1973年までの高度経済成長期に得た「物質的な豊かさ」。モノに飽和した人々が次に求めたのは、生活の質を向上させることでした。
これより、消費することの意味は、「物質的に豊かになること」から「個人を表現すること」へと変化していきます。
特に90年代後半からは「イベント」や「女子会」など、より体験にフォーカスした消費行動が中心になりました。「コト消費」の時代です。
そして2010年代に突入すると、スマートフォンが普及します。いつでもECサイトにアクセスできる生活からさらに発展し、2010年代後半にはSNSが台頭しました。
私たちの日常は、常にオンライン状態となり、個人のふるまいが社会的な意味とつながりやすくなりました。個人の発信力が社会に影響を与えるようになったことと並行して、D2C(Direct to Consumer)モデルでのブランドが活躍するようになりました。
企業や個人が、中間流通業者を挟まずに消費者と直接コミュニケーションをとる販売スタイルです。
こうした消費スタイルでは、消費者一人ひとりのストーリーが可視化しやすくなります。「イミ消費」の時代の到来です。
こうした現代の「イミ消費」を読み解くには、1990年後半から2000年代に生まれた人々である「Z世代」の価値観を理解する必要があるでしょう。
マッキンゼーは、Z世代の特徴を「真実の世代(True Gen)」と表現しています。https://www.mckinsey.com/industries/consumer-packaged-goods/our-insights/true-gen-generation-z-and-its-implications-for-companies
本レポートによれば、Z世代には以下のような特徴があります。
・多くの情報を収集し、相互に参照する
・個人の表現として消費活動をする
・複数の主義を同時に持つ
・レッテルを貼らない
・社会課題のために消費活動をする
・世界をより良くするための対話が可能だと強く信じている
日々、オンラインに溢れる情報を取捨選択し、その真偽を見抜く必要に迫られている現代の人々は、単純化された広告や、企業からの一方的なメッセージでは心を動かされなくなりました。
また、世の中がコモディティ化していく中で、「同じ性能であれば安いものを選ぶ」という価値観も浸透しています。
さらに、モノを所有することで発生するコストにもシビアな態度を持っています。環境問題や住空間の問題など、様々な要因からサブスクリプション型のサービスが流行しています。
こうしたイミ消費の時代において、ブランドは、ただ単に「良質なもの」であるだけでは、生き残ることができなくなっていきます。
複合的な文脈の中で選ばれるブランドになるためには、ブランドの想いやストーリーを丁寧に伝え、消費者一人ひとりに共感をしてもらう必要があります。
では、現代の人々は、ブランドが発信するどのようなストーリーに共感するのでしょうか?
2020年代以降のライフスタイルをもう少し詳しくみてみましょう。
日常のオンライン化
スマートフォンやインターネットの普及によって起きた、一つ目の大きな変化は、日常のオンライン化です。
2010年代より前であれば、ネットワークに接続された状態は「パソコンの前に座っている時」だけでした。しかし現在、私たちの生活は常に何かと通信している状態です。
ECサイトに欲しいものが入荷されたら即時に通知を受け取ることができ、暇な時間はYouTubeやNetflixで今の気分に最適なコンテンツを選ぶことができます。空腹ならばUber Eatsを利用して、部屋から出ることなく好きなものを食べることが可能です。
日々の多くをオンラインサービスに囲まれて過ごすことで、移動したり調べたりする時間は圧倒的に短縮されました。これにより、手間をかけることへの価値が跳ね上がります。人々は今、自分の時間やお金を「本当にイミのあるもの」に対して費やしたいと望んでいます。
それは、共感できるブランドだったり、大切な人と過ごす時間であったり、それらを生み出す企業を支援する行為そのものだったりとさまざまです。
アップデートし続ける日常
二つ目の大きな変化は、アップデートです。
スマートフォンが日常生活に浸透する以前は、「購入したモノやサービスが知らぬ間に変化している」という体験は稀でした。現在は、そうしたことは当たり前に起きています。
大きなきっかけは、アプリケーションの普及です。たとえば、InstagramやTwitter、LINEといったサービスは、時代の要求に合わせてアプリケーションのコンテンツを素早く変化させています。人々の興味関心をより強く惹きつけるデザインを目指し、今のユーザーが抱く気分に寄り添った機能を追加していきます。
こうした「変化」は、ブランドから一方的に提供されるものばかりではありません。どんなに魅力的なサービスであっても、それが心や体に悪い影響を与えるデザインであれば、人々は拒絶の声をあげます。
その声は可視化され、多くの人から共感を集めると、瞬時に話題化します。SNSの普及にともない、個人の声が社会に届きやすくなった結果、人々の声が、サービスをダイレクトに変化させていく時代になりました。
ユーザーの声に応えるサービス
かつてないほど個人が社会とつながることのできる現代において、Z世代の人々は、社会課題に対して強い当事者意識を抱いています。デジタルネイティブの彼らは、問題を指摘する個人の声が、実際に社会を変えていく様子を小さな頃から体験してきました。
オンライン化された日常と共に成長した人々が、わざわざ手間や金銭を投じたいと思えるのは、「心から共感できるブランド」だけです。「良いサービスを提供しているけれども、環境破壊をしているブランド」や、「優れたプロモーションを展開しているけれども、ユーザーの声を無視したサービスを持つブランド」など、一貫性のないものに対して彼らは反感を抱きます。
昨今のSNSでは労働環境に問題があるブランドや、経営者が差別的な発言をしたブランドに対して、すぐさま不買運動がわきおこります。ブランドの提供するサービスだけではなく、その生産過程や、サービス提供者の生き方など、全てが「共感できるかどうか」を検討するための材料なのです。
今まで以上に徹底した気配りが求められる状況といえます。
しかし、ブランドが本来持っている「想い」を、ねじ曲げる必要はありません。Z世代の人々は「複数の主義を同時に持つ」ことができるため、一貫したコンセプトを誠実にわかりやすく伝えることさえできれば、共感者はみつかるでしょう。
BXデザインは、オンライン化されたこの世界を、ブランドが生き抜くための武器になります。今必要なのは、外向き・内向きの両面から設計された、ブレないメッセージです。
BXデザインが目指すのは、サービスだけではなく、ブランドイメージだけでもありません。ブランドが人々に届けるメッセージと、実際にユーザーが享受する体験との間に、齟齬がない状態なのです。
ここまで、「今、BXデザインが求められる理由」について、消費価値観の変遷をたどりながらご紹介しました。次回からは、より具体的なコンセプトの設計方法について触れていきます。