BXデザイン(Brand Experience Design)について、いくつかの側面からご紹介してきました。

BXデザインとは「ブランドの体験価値を設計する・届ける」という意味を持ち、この50年ほどの間におきた人々の消費価値観の変容にともない、重要性が増してきている概念です。
私たちの消費傾向は、「モノ消費からコト消費へ、そしてイミ消費へ」という変遷をたどってきました
イミ消費が中心となるライフスタイルにおいては、表層的な美辞麗句ではなく、より強く、発信者の真実を含んだメッセージを届けるために「パーパスから始める」ことが重要です。

MusubimeのBXデザインワークでは、こうした前提を元にメッセージを作っていきますが、その対象は主に二つに分けられます。「外向きのメッセージ」と「内向きのメッセージ」です。
本記事では、「内向きのメッセージ」にフォーカスして、具体的な内容をお伝えしていきます。

インターナルブランディングとは何か

インターナルブランディングは、インナーブランディングとも呼ばれ、「組織の理念についてメンバーが深く理解・共感し、行動化できている状態」をつくり出すための施策です。
エクスターナルブランディング(顧客や社会に向けた、外向きのブランディング)ではサービスの届け方やメッセージが主なツールとなりますが、インターナルブランディング(経営陣やメンバーに向けた、内向きのブランディング)では組織の運営やマーケティング、人的リソースのマネジメント、リーダーの育成など、仕組みをつくる領域にまで踏み込んだ施策が行われます。

エクスターナルブランディング / インターナルブランディング

組織の存在理由であるパーパスを起点とし、内向き・外向きの双方へとアプローチをすることで、一貫したブランド体験を創出することができるようになります。
インターナルブランディングで行う主な施策は、以下のような内容です。

  • 企業理念(パーパス・ビジョン・ミッション・バリュー)をつくる
  • 企業理念への理解・共感を促進する
  • 企業理念を実現する具体的な行動をデザインする
  • 行動を起こすための施策を用意する
  • 効果を測定し、改善策を提案する
インターナルブランディングの施策

ご覧いただくとわかるように、インターナルブランディングという言葉が示す範囲は、非常に広範です。パーパスやビジョンなどの「理念」だけが素晴らしくても、組織は機能しないためです。
理念は理解・共感されることで初めて意味を持ちます。さらに、共感された内容をメンバーの一人ひとりが自分ごと化して具体的な行動にうつせるようになっていくことで、組織そのものが変化していきます。そして、習慣化された行動が実際に目標と合致しているのか、メンバーの納得度は深まっているかを定期的に測定し、改善していける仕組み作りが必要です。

多様な働き方が浸透しつつある現代において、組織メンバーの価値観もまた、ますます多様化していきます。そうした状況でもブランドとしてブレないメッセージを顧客や社会に届けていくためには、個人の意思は尊重しながらもチームをまとめあげる力のある、フレキシブルな目標やメッセージが必要です。

「行動」や「改善」にまで目配りの効いたインターナルブランディングの施策を行うことで、真に一体感のある「ブランド」をつくることができます。

インターナルブランディングが必要な理由

インターナルブランディングを進めることで得られるものは大きく分けて4つあります。

インターナルブランディングで得られるもの

まずは、メンバーが組織について深く理解する手助けになります。「部長はAと言っているけれど、課長はBと言っている」という状況が生まれたときも、組織としてのビジョンや行動指針、スローガンなどがはっきりと示されていれば、「AとBの発言の裏にある意図は同じことだ。ビジョンで示されている」というように、メンバーが自ら考え、判断することができるようになります。

また、組織がどのような社会貢献をするのか明確に示すことで、メンバーの組織愛が高まります。「深い理解」と「愛着」によって、組織としての一貫性も生まれ、同じ思いを、それぞれの言葉で発信していけるようになるでしょう。こうした理解や愛着で繋がっている組織は、離職率が低くなっていきます。

組織メンバー向けの指針をはっきり打ち出すことは採用方針の明確さにも繋がっていきます。既存メンバーが自発的に発信する内容に触れたり、求人内容がクリアであったりすることで、組織にマッチした人材を採用しやすくなっていきます。

このように、インターナルブランディングでは「内向きの」取り組みでありながら、外部にも大きな影響を与えるブランディングなのです。

それでは、ここからは具体的に、インターナルブランディングの施策事例をみていきましょう。

段階的なスローガンで実現する組織風土|Meta

まずは企業理念について、Meta(旧Facebook)の事例をご紹介します。2022年2月16日、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグはインターナルブランディングの変更を発表しました。
6つのスローガンは以下の通りです。

  • Move Fast(素早く行動せよ)
  • Focus on Long-Term Impact(長期的なインパクトに焦点を当てよ)
  • Build Awesome Things(素晴らしいものをつくれ)
  • Live in the Future(未来に生きよ)
  • Be Direct and Respect Your Colleagues(率直であれ、そして同僚に敬意を持て)
  • Meta, Metamates, Me(メタ、メタ友、自分)
参照:https://www.metacareers.com/facebook-life/

それぞれの具体的な内容について、以下に要約します。

Move Fast(素早く行動せよ)
今日できることを来週まで待たず、誰よりも早く学習せよ。障壁を計画的に取り払い、優先すべき事柄のスピードを上げよ。個人としてのみならず、組織として一つの方向を目指し、共に早く進もう。

Focus on Long-Term Impact(長期的なインパクトに焦点を当てよ)
長期的な思考を重視し、目先の勝利に迎合するな。私たちがもたらすインパクトの時間軸を延長せよ。たとえ結果が出るのが数年後でも、最もインパクトがあることに挑戦すべきだ。

Build Awesome Things(素晴らしいものをつくれ)
たんに良いものではなく、畏敬の念を抱かせるようなものを届けよ。これまでは「役に立つ」プロダクトを生み出してきたが、これからは「感動させる」ことにもフォーカスする。この価値基準は、私たちの行動全てに適用される。

Live in the Future(未来に生きよ)
分散型ワーク(さまざまな場所で働くあり方)の未来を実現するために必要な指針。人々がどこにいても「一緒にいる」と感じられるような未来のプロダクトを優先的に採用していく。

Be Direct and Respect Your Colleagues(率直であれ、そして同僚に敬意を持て)
率直に話し合い、フィードバックをし合う組織をつくる。お互いがエキスパートであることを忘れず、敬意を抱く。

Meta, Metamates, Me(メタ、メタ友、自分)
Meta社と、Meta社が目指すもののよき理解者であれ。組織としての成功のため、チームメイトとしてお互いに責任を持て。

これらは、非常によくつくられたスローガンといえます。個人の行動指針になるものから、Metaの一員としてどう振る舞うかを示すものまでが、段階的に示されています。

Meta社のインターナルブランディング1

たとえば「Move Fast(素早く行動せよ)」は、個人の行動指針としてもミニマムで機能します。「今日できる資格の勉強を後回しにしなかったか」といった自己チェックが可能になる項目です。

また、「Focus on Long-Term Impact(長期的なインパクトに焦点を当てよ)」や「Live in the Future(未来に生きよ)」「Build Awesome Things(素晴らしいものをつくれ)」というスローガンがあることで、複数人でのディスカッションでも話し合うべき軸が明確になります。
メンバーは新しいプロダクトの企画をレビューする際、「これは長期的なインパクトを与えるサービスだろうか」「分散型ワークを後押しする要素はあるだろうか」「良いものではなく、素晴らしいものになっているだろうか」といった視点を持つことができます。

Meta社のインターナルブランディング2

そして、「Be Direct and Respect Your Colleagues(率直であれ、そして同僚に敬意を持て)」は、どういう組織風土であるべきかをわかりやすく示すスローガンです。萎縮したり無礼すぎたりすることなく、高めあえる環境をつくるための具体的な指標となっています。

最後のスローガンである「Meta, Metamates, Me(メタ、メタ友、自分)」は、語呂の良さによって口に出しやすく、組織の一員であるという自覚を与えるのに最適なフレーズになっています。社名(Meta)、友(mates)、自分(Me)が隣り合わせで並ぶことで、自然と組織に対するポジティブなイメージを抱けるようになっています。

このように、インターナルブランディングでは「個人」から「作業チーム」、そして「組織全体」へと、段階的な構成にすることでメンバーの認識をつくりやすくなります。

広く力強いパーパスでコミットメントを達成する | ユニリーバ行動指針と福利厚生で組織の成長を実現|USJ

関西を代表するテーマパークであるUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)では、社員の行動指針となるよう、以下のようなバリューを設定しています。

USJの行動指針

高いホスピタリティが求められるテーマパークですが、「安全性」や「チーム」といったトピックが最初に述べられているのが特徴的です。

また、こうしたバリューを具体化するものとして定められているのが「行動指針」。来園者の満足度を高めるために、組織メンバーは以下のような指針に従って行動しています。

  • アイコンタクトをする/ 笑顔でいる/ あいさつをする
  • 自分のお気に入りのアトラクションをお薦めする
  • 子どもと友達になる
参照:「USJ、声かけマジック、来園者満足度アップへ指針、「ふれあい」で集客、士気向上。」『日経流通新聞』2010 年 3 月 5 日。

また、USJではバリューや行動指針に基づいて、独自の福利厚生を用意しています。インターナルブランディングと関連が強い福利厚生としては、以下のようなものがあります。

USJの福利厚生
  • スポーツイベント
  • 季節に応じたパーティー
  • パークの無料招待パス
  • 社内SNS
  • オフィス内の専用カフェ
参照:https://recruit.usj.co.jp/career/life/perksbenefits.html

こうした待遇は、高水準であるとともに、USJのメンバーがホスピタリティを獲得していく手助けになる内容です。

イベントやパーティーに参加することで、メンバー同士の交流が進むとともに、人を楽しませるためのマインドも培われていきます。USJの無料パス・割引パスはメンバー自身が現場を理解する手助けになります。また、家族や友人を招待することで「自慢できる場所にしよう」という組織への愛着も生まれやすくなります。社内SNSの存在は、安心感と帰属意識を後押しするでしょう。

そして、多くのゲストに触れることの多い現場のメンバーにとって、仲間内で一息つけるカフェが社内にあるということの意味は重要です。安心できる場所が社内にあることで、オフィスへの愛着や帰属意識を高めることができます。

こうした福利厚生は、特に「Team Players チーム一丸となります」や「Have Fun! とことん楽しみます!」といったビジョンにも紐づいた施策といえます。

このように、インターナルブランディング施策では、組織メンバーを満足させながら自発的に学びや結束に向かわせるための施策にまで関わり合ってくるのです。

インターナルブランディング=ブランドを自走させるしくみづくり

ここまで、理念やスローガンとしてのインターナルブランディングから、具体的な施策としてのインターナルブランディングまでを紹介してきました。

理念やスローガンを策定する際には、個人レベルから組織レベルまで、さまざまな規模を想定したデザインが必要です。また、具体的な施策では、メンバーの一人ひとりが納得し、楽しみながら行動できる配慮が必要です。誰も覚えられないようなスローガンを立てたり、実現不可能な苦しい施策を設定することは、結果的に組織のマネジメントに打撃を与えます。

インターナルブランディングにおいて、ブランドを体現するのは組織のメンバー個々人であり、かれらが自走するしくみを注意深く設計することが、ブランディングを成功へと導いてくれるでしょう。